IFRS(国際会計基準)と食品スーパーマーケットについて
いよいよ、この6月に公表された金融庁のIFRS(国際会計基準)の中間報告によれば、日本でも2010年3月期決算から、IFRS(国際会計基準)での決算の任意適用がはじまり、2015年か2016年には上場企業への連結決算での強制適用が義務づけられることとなった。したがって、食品スーパーマーケット業界も、上場企業はIFRS(国際会計基準)への対応が避けて通れなくなり、今後、いかに、IFRS(国際会計基準)に対応するための、経営体制の整備が必須といえよう。そこで、ここでは、食品スーパーマーケット業界が現時点で、2015年のIFRS(国際会計基準)適用に向けて、どのような対応をすべきかについてまとめてみたい。
IFRSは、International Financial Reporting Standardsの略で、一般には国際会計基準と呼ばれている、国際的な会計の仕組みである。すでに、EUでは2005年から適用が始まっており、アメリカ、カナダでも2011年から適用がはじまる。アジアでは中国がすでに2006年から、韓国、インドは2011年から適用がはじまり、世界の主要国では日本が最も遅く、2015年からの適用となる。
では、これまでの日本の会計の仕組みとどこが違うかであるが、これまで以上に、より投資家からの視点が重視され、P/L(損益計算書)よりも、B/S(貸借対照表)、CF(キャッシュフロー計算書)が重視されることとなる。名称も、B/Sが財政状態計算書、P/Lが包括利益計算書、CFはそのままキャッシュフロー計算書であるが、に変わり、この言葉が表現しているように、投資家にとって最も重要なキャッシュの状況、財政状況を把握しやすく、しかも、全世界の企業を比較しやすくするためのものであるといえよう。したがって、当然のことであるが、これまで以上に、日本の企業が世界の投資家からの投資対象になると同時に、日本の投資家も世界の企業を投資対象にできることになり、まさに、日本が世界の投資市場に組み込まれることになる。
そこで、食品スーパーマーケットにとって、このIFRS(国際会計基準)への対応であるが、まず、すぐに対応すべき課題としては、IFRS(国際会計基準)はB/S(貸借対照表)を主として重視し、P/L(損益計算書)を従としているため、これまでのP/L重視から、B/S重視へと視点を変える必要があることである。特に、食品スーパーマーケットは資産の50%以上が固定資産で占められているため、これらが、いわゆる公正価値(時価)で評価され、これまで以上に純資産の変動が大きくなる可能性が高く、これとP/Lの営業利益(IFRSでは事業利益)との関係で包括利益が計算されることになり、利益そのものの概念がP/Lのイメージから、B/Sのイメージに大きく変わり、B/Sの利益をしっかり把握する必要があるという点である。したがって、これまで以上に、慎重な投資(食品スーパーマーケットでは新店開発)が求められ、かつ、将来に渡っての公正価値の予想が重要であり、この投資判断ひとつで、利益が吹っ飛んでしまいかねないことになろう。
そして、逆に、これはキャッシュ重視へともなろう。IFRS(国際会計基準)自身もCF(キャッシュフロー計算書)は重視しており、P/Lの包括利益の中でも事業の収益はまさにキャッシュを表しており、包括利益の中で財務の利益がマイナスになった場合は、それをどれだけ補っているかが明確になり、そのためには、キャッシュをいかに高められる経営体制を作れるかが問われよう。これまで以上に、食品スーパーマーケットにとっても最も重要なキャッシュの獲得、マーチャンダイジング力が問われるところである。
一方、全く視点を変えて、もうひとつ重要なことは、M&Aへの対応であろう。IFRS(国際会計基準)の適用により、世界の企業と会計面で一本化されるので、世界の投資家はもちろん、海外大手小売業にとっては、日本の食品スーパーマーケットを買収しやすくなり、同時に、日本の食品スーパーマーケットも国際的な資金調達も可能となるので、海外の小売業を買収しやすくなる。ただ、当面は日本から海外よりも、海外から日本の方が強いニーズがあると思うので、買収されないような防衛策を打つと同時に、時価総額を高める経営を心掛ける必要があろう。恐らく、その前に、国内の食品スーパーマーケット間、異業種間のM&Aが先に先行するのではないかと思う。時価総額を高めるためにも、買収防衛策を打つためにも、そして、純利益を増強するためにも、規模の拡大は避けて通れないからだ。今後、2015年までに、食品スーパーマーケット業界でも、大小、様々なM&Aが起こるのではないかと予想される。
IFRS(国際会計基準)の上場企業への強制適用は日本では2015年であり、まだ、金融庁からは、この6月に中間報告が出たばかりである。そこで示されたロードマップにしたがって、今後、様々な議論を各界で積みあげ、体制整備がなされてゆくものと思われる。食品スーパーマーケット業界もこの流れの中で、経営体制を整備する必要があるといえ、これを機会に経営そのものを、これまでのP/L重視から、B/S、CF重視へ転換してゆく良い機会ととらえてゆくべきであろう。世界の投資家、小売業を視野にいれつつ、一方で、食品スーパーマーケットにとって最も重要なキャッシュを生み出す大本のマーチャンダイジングを、キャッシュという観点から根本的に見直してゆくべき良い機会でもある。
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