流通の覇王、小説「スーパー」戦争を読む!
久しぶりに、経済小説を読んだ。ひょんなきっかけで、流通の覇王、小説「スーパー」戦争(大下英治著、光文社文庫)を知り、読んでみた。小説といっても、流通業界の実話をベースにしており、主人公も明らかにダイエーの創業者、中内功氏がモデルである。また、当時の中内功氏と覇を競ったイトーヨーカ堂の伊藤雅俊氏、西武百貨店の堤清二氏と思しき人物も登場し、ダイエーが破竹の勢いで、成長していた当時の流通業界の激しい競争の時代が背景となっている。特に、本書の中でも再三登場する言葉であるが、「Cut Throat Competition:カット・スロート・コンペティション(喉をかっきるような激烈な競争)」がぴったりの、スーパー戦争を題材にした小説である。
余談だが、後半の部分の一節であるが、「「トーキョー堂」の加東義郎にも誠一という長男がいる。誠一は、奇しくも、鳴門と長男賢と慶応大学商学部の有名ゼミである、村西ゼミの卒業生である。」というところがあり、明らかに、私も教えを請うたゼミ、村田ゼミのことであり、この小説の中の鳴門賢氏も、加東誠一氏も顔が浮かび、ドキリとした。小説とはいえ、あまりにリアルであり、登場する人物、社名、地名、年代、すべて特定できる内容であり、ここまで、活字にしても良いのかと思った。
さて、小説の内容であるが、6章構成となっている。第1章が敵地へ乗り込め、第2章が新しきライバルとの対決、第3章がデパート界への進出、第4章が関西への殴り込み、第5章が銀座デパート戦争、第6章が新たな挑戦へ、である。全体を通じて、レインボー(ダイエー)、南部ストア(西友)、トーキョー堂(イトーヨーカ堂)の3つ巴の日本全国での覇権争い、特に、所沢、藤沢、津田沼、札幌、三国、堺、そして、銀座でのCut Throat Competitionに焦点が当てられており、当時の状況を知る上で、貴重な参考文献のひとつといえよう。
この小説は、1984年6月に徳間書店より刊行された作品を、著者、大下英治氏が加筆修正し、新たに書き下ろし部分を付け加え、初版が1995年に、光文社より発行されている。したがって、ベースは約30年前の流通業界ではあるが、最後の章、「第6章、新たな挑戦」では、ウォークランド(リクルート)の買収の話が入っており、これは、1992年のことであるので、この返までの中内功氏の時代がカバーされた内容であるといえよう。したがって、その後、2000年前後からはじまるダイエーの衰退、2005年9月の中内功氏が亡くなる時の内容は入っておらず、創業からダイエーのピークまでの中内功氏の生きざまをモデルにした流通小説といえ、まさに、流通の覇王というタイトルに相応しい、躍動感あふれる小説である。
この小説の中でも特に、「第1章、敵地へ乗り込め」、は流通の覇王の全体を象徴している章といえる。冒頭の部分が、埼玉県所沢市へダイエーが関西からのりこむ内容であるが、この所沢はまさに西武王国の本丸であり、当時、東の雄、西友と、西の雄、ダイエーが真っ向からぶつかることになる。その場面をダイエー側からの描写と西友、そして、西武グループからの描写と、双方から描いており、心理戦、いやがらせ、強引な突破あり、当時、このような大戦争が繰り広げられていたかと思うと、小説とはいえ、びっくりである。実際のダイエー、所沢店は1981年11月にオープンしているので、ちょうど、この当時、いまから、約30年前のことであるが、改めて、現在の所沢の状況を見ると、感慨深いものがある。本書では、ダイエー所沢店のオープンの描写は、「第4章、関西への殴り込み」の章の中で取り上げられるが、これを見ても、ダイエー所沢店はまさに、ダイエーの関東への参入の象徴的な出来事であったことがわかる。
また、第1章では、この所沢以外でも、むしろ、メインに取り上げられているのがトーキョー堂(イトーヨーカ堂)との、富士見市戦争(藤沢)である。ここでは、ほぼ、オープン日が重なったため、オープン日の探り合いからはじまり、ちらし対策、当日の特売合戦、オープン日に調査部隊を送り込んでの1円を競う激しい価格競争、虚々実々の駆け引き、心理戦が双方から描かれていて、迫力がある展開である。
これ以外にも、全国各地で繰り広げられてゆくレインボー(ダイエー)の覇権をめぐっての戦いが余すところなく描いてゆく。特に、後半の部分では、ボヌール・ジャポン銀座(プランタン)の銀在デパート戦争の詳細も細かに描かれ、小説とはいえ、当時の流通戦争の実態が浮かび上がり、いまでは考えられない、まさに、Cut Throat Competitionであったといえる。
このように、本書、「流通の覇王」は、ダイエーの創業から、ピーク時までの、中内功氏をモデルにした流通戦争、Cut Throat Competitionをテーマにした小説であるといえる。当時の状況、まさに、日本の流通業界の歴史と実態を知る上で、小説ではあるが、貴重な文献のひとつといえよう。すでに、当時のダイエーは生まれ変わり、再生途上であり、中内功氏もすでに亡くなっているが、その上に、今日の日本の流通業があると思うと、感慨深いものがある。ただ、現在の覇王を探すとするといったい誰なのか、また、今後の覇王は誰になるのか、流通業界もまさに未知の世界に突入したといえよう。
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