書評、スーパーマーケットほど素敵な商売はない!
「スーパーマーケットほど素敵な商売はない」(安土敏、ダイヤモンド社)、「100年たってもお客様から支持される企業の原則」を年末年始に読んだ。安土敏氏は元サミットの社長の荒井伸也氏のペンネームであり、現在は、オール日本スーパーマーケット協会会長である。代表作は、伊丹十三監督の「スーパーの女」の参考文献となった「小説スーパーマーケット」であり、業界関係者はもちろん、現代日本文学としても定評のある作品である。その安土敏氏の最新刊が本書である。
この本は、オール日本スーパーマーケット協会発行のNetwork誌連載の巻頭言を再構成し、加筆修正したものであるという。全部で6章構成となっており、著者がスーパーマーケット業界で働く人たちのために書いたというように、サミットでの現場経験をふんだんに盛り込み、成功事例、失敗事例も可能な限り公開し、スーパーマーケットの魅力と可能性、そして、荒井氏の熱い思いをまとめあげた内容である。
それぞれの章のテーマであるが、第1章は、「スーパーマーケットを正しく理解することから始めよう」であり、これは、長年、著者がこだわってきたテーマであり、GMSとスーパーマーケットの違いを、様々な事例でわかりやすく解説した章である。一般の理解はGMSを大手、スーパーマーケットを中堅と呼び、同じ業態として、規模の違いで区別しているが、著者は、スーパーマーケットはGMSとは全く違う業態であり、独立して認識し、事業としても取り組むべきであると主張し続けており、その理由を、この章では、特に、ワインを例にとってわかりやすく解説している。
実際、著者が主張するように、GMSと食品スーパーマーケットは別業態として見るべきであると思う。私が食品スーパーマーケット最新情報のブログを立ち上げたのも、食品スーパーマーケットは独自の技術とノウハウをもった小売業であり、GMSをはじめ、他の食品小売業と区別して捉えるべきであると考えたこともひとつの理由である。これはPI値を研究すると、より鮮明にその違いがわかる。食品スーパーマーケットでは原則PI値の高い商品しか品揃えできないが、GMSはPI値が限りなく低い商品まで品揃えでき、ここから、品揃え、価格政策、商品管理、レイアウト、棚割、販売促進、サービス等、すべての戦略、戦術が違い、もはや同一の業態としてくくるには、無理があるからである。この点は著者の主張に全面的に賛成である。
第2章では、「強い店作りと負けない出店」と題し、スーパーマーケット独特の出店戦略が語られる。特にサミットの1号店から12号店までのスクラップビルドの実態は圧巻であり、サミット創業の原点を知る上でも貴重な記述である。それ以上に、日本のスーパーマーケットの初期の頃の苦労が、この12店舗に集約されているともいえよう。この章では、特に、スーパーマーケットが商圏を守り抜くことの大切さを説いている。
第3章は、「スーパーマーケット経営の考え方」であり、ここでは、スーパーマーケットのマネジメントを取り上げている。特に、DCLM(decision-making、communication、leadership、motivation)の大切さを説き、著者の代名詞ともいうべき、「作」と「演」という言葉がはじめて登場する章でもある。第4章は、「スーパーマーケットの商品」であり、ここでは特に、PBとNBについて、それぞれの重要性と、共存共栄が強い店づくりにつながることを解説している。
第5章は、「スーパーマーケットの販売促進と接客」であり、ここでは特に著者独特のセルフサービスの意義についての解説が入る。セルフサービスは人手を省くためではなく、客の買い物の便利性のためであるという内容である。スーパーマーケットでは、1日2,000人から3,000人のお客様が来店され、約5,000品目の中から1人平均10点近い買い物をされる。このような状況で顧客1人1人が最も買いやすい店づくりをすると、必然的にセルフサービスが合理的であるとの結論である。販促も接客もこの原理を前提に考えるべきであると説いた章である。そして、最後の第6章、「スーパーマーケットの人事・教育」であるが、ここでは、ラインによる人事管理こそが人事管理の基本であり、直属の上司だけが正しい人事考課ができると説き、スーパーマーケットでは、躾を含め、店長の役割が極めて大きいと解説した章である。
このように本書は、著者のサミットでの約30年強の経営経験を踏まえ、これから、そして、現在スーパーマーケットに携わっている方への遺言ともいうべき著作であるといえる。スーパーマーケットとGMSとの違い、その店づくり、経営戦略、マーチャンダイジング、販売促進と接客、人事・教育について、著者が一貫して主張してきたスーパーマーケット独自の哲学、技術、ノウハウを分かりやすくまとめたスーパーマーケットのバイブルともいえよう。著者は1937年生まれであるので、70歳を超えているが、今後、これに続く、スーパーマーケット独自の哲学を踏まえた著作を強く期待したいところである。
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