資産を持たない食品スーパーマーケットの決算を見る!
食品スーパーマーケットの経営は、突き詰めれば、営業活動によりキャッシュを生み出し、そのキャッシュをもとに新規出店をいかに安定、継続的に行い、成長を果たしてゆくかにあるといえる。キャッシュが思うように生み出せなくなった時、成長は止まり、企業は衰退の方向に向かう。そのキャッシュがどのように生み出されているのかを見るのがP/Lであり、そのキャッシュをどのように新規出店に活用しているのかを見るのがCF、B/Sであるといえる。そこで、ここでは、新規出店に焦点を当て、成長著しい典型的な食品スーパーマーケット3社、トライアルカンパニー、大黒天物産、九九プラスがどのように新規出店を果たしているのかをB/S面から見てみたい。
実はこの3社は、食品スーパーマーケット業界の中でも共通の出店戦略を採用している企業である。居抜き出店である。通常、食品スーパーマーケットの出店戦略は土地、建物、敷金保証金等を資産として持ち、1店舗約5億円の投資を行い、新規出店を行ってゆく。100店舗出店するには単純計算で500億円の投資が必要であり、同時に、同額の資産をもつことになる。マーチャンダイジング力、すなわち、キャッシュを生み出す力が強い企業は自己資金で新規出店ができるが、弱い企業、あるいは、出店を急ぐ企業はキャッシュを何らかの方法で調達し、負債に頼る新規出店となる場合が多く、結果、多額の負債をかかえ、新規出店がストップ、すなわち、成長がとまることになる。
ところが、ここで取り上げる3社、トライアルカンパニー、大黒天物産、九九プラスは通常の食品スーパーマーケットとは全く違う経営戦略を採用している。居抜き出店、資産を極力もたない新規出店である。通常の食品スーパーマーケットが資産として持つ、土地、建物、敷金保証金等が極端に少なくなるため、マーチャンダイジングにより生み出されたキャッシュを新規出店に当てた場合、通常の食品スーパーマーケットよりも遥かに早いペースで新規出店を果たすことができる。
どのくらい早いペースで出店ができるかであるが、先に見たように、一般的な食品スーパーマーケットの出店にかかわる資産、土地、建物、敷金保証金等の合計は平均約5億円である。これに対して、トライアルカンパニーは約2億円、大黒天物産は1.5億円強、九九プラスにいたってはわずか0.2億円弱である。総資産に占める割合も約40%、通常の食品スーパーマーケットが約60%強であるので、いかに資産を持たずに新規出店ができるかがわかる。単純計算でいけば、トライアルカンパニーは、5億円÷2億円、2.5倍、大黒天物産は5億円÷1.5億円、3.3倍、九九プラスは5億円÷0.2億円、25.0倍の速さで、新規出店が可能ということになる。
これが、この3社の急成長の秘訣であるといえる。したがって、キャッシュがマーチャンダイジング力によりしっかり生み出されることが大前提であるが、このエンジンが急速度で回転している限り、この3社は通常の食品スーパーマーケットを遥かにしのぐ速さで新規出店が可能となり、成長を果たしてゆくことができる。実際、トライアルカンパニーの3年前との売上高との比較を見ると139.39%であり、大黒天物産はまだ、最新決算が公表されていないので、2009年5月期で見ると、139.11%であり、九九プラスは108.77%である。九九プラスはローソンとの資本・業務提携に踏み込まざるをえなくなる経営の危機があり、一時的に成長が止まったが、いずれ、成長戦略に戻ることが予想される。ただ、九九プラスの最新の店舗数は989店舗であり、これまで、まさに、急成長を遂げてきたといえる。
したがって、いずれも、資産を極力もたなかったが故に、キャッシュの大半を新規出店に当て、通常の食品スーパーマーケットの2.5倍、3.3倍、25.0倍の速度で新規出店を果たし、急成長してきたといえる。その意味で、特に、この3社は食品スーパーマーケット業界の中でも異色の経営戦略、資産を持たない出店戦略を採用し、急成長を遂げた典型的な食品スーパーマーケットであるといえる。
ただ、急成長を遂げるには当然、既存の市場の中に割って入ることになり、軋轢、摩擦が生じる。その衝撃を打破する戦略が一方で必要となる。それが、ディスカウト戦略である。各社共通しているのは、強力なディスカウント戦略であり、トライアルカンパニー、大黒天物産はもちろん、九九プラスも通常食品スーパーマーケットの平均単価が200円弱であるので、100円という半値で商品を販売し、見方を変えればディスカウントストアであるともいえよう。
このように食品スーパーマーケットの成長戦略は、通常は土地、建物、敷金保証金等へ約5.0億円の投資を行い、成長を遂げてゆくのに対し、ここに上げた3社、トライアルカンパニー、大黒天物産、九九プラスは資産を極力もたず、その分、2.5倍、3.3倍、25.0倍の店舗数をディスカウントを武器に出店し、急成長を遂げてきたといえる。今期の決算を見ると、この3社の好調さが光るが、このようなデフレ環境の時はまさに、時流にあった経営戦略であるといえよう。今後、この3社がさらに出店ペースを速めるか、その動向に注目である。
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