N001、トマト、きゅうり、米のID-POS分析の論文を見る!
ここ最近、農産物直売所の調査事業を実施する中で、青果物に関する論文を読む機会が多くなった。収集した資料、文献、論文はすでに数百となり、まだ目を通していないものもあるが、順次、読み込んでゆく予定である。また、これまで触れる機会があまりなかった日本農業新聞も読むようになった。さらに、農林水産省のホームページも頻繁にチェックするようになり、こと青果物の流通、そして、マーチャンダイジングについては、これまでの食品スーパーマーケット側から見ていた観点とは全く違う角度から見る機会が増え、驚かされることも多く、考えさせられることも多い。今回の調査結果は今後、順次、様々な媒体を通じて公表してゆく予定であるが、本ブログでは特に、食品スーパーマーケットにとって重要と思われる内容を中心に取り上げてゆきたい。
さて、今回取り上げるのは、青果物のID-POS分析についてである。食品スーパーマーケットのID-POS分析はどちらかというと、メーカー側からのニーズが高いため、加工食品、日配食品のID-POS分析事例が多く、生鮮食品、惣菜等については各食品スーパーマーケットのJANコード、商品分類がまちまちであり、SKUの設定も商品によりまちまちであったりし、中々ID-POS分析に踏み込めないのが実態といえる。これに対して、直売所は青果物が中心であり、しかも、商品と生産者がSKUレベルでリンクしているため、顧客IDが把握できると商品分析だけではなく、生産者分析まで可能となり、食品スーパーマーケットの青果物では把握することのできない領域にまで踏み込んだID-POS分析が可能となる。
原則、食品スーパーマーケットの青果物は最近では産直、顔の見える野菜等が増えてはいるが、それでも、その割合は20%前後といえ、約80%は中央か地方卸売市場からの青果物であり、産地までは把握できても、生産者まで把握することは、仕組み上、不可能に近いといえる。ところが、直売所は全く逆の比率であり、約80%は生産者が把握でき、市場からの商品は20%前後となるのが実態である。さすがに、生産者が少ない東京都の直売所、道の駅などを見ると、50%前後まで下がる場合もあるが、それでも、50%は生産者まで把握が可能な商品である。したがって、ID-POS分析が可能であれば、単に商品分析だけでなく、生産者の分析にまで踏み込むことができ、消費者、商品、生産者の三位一体のID-POS分析が可能となる。
そこで、実際の事例であるが、中央農業総合研究センターからの報告論文「生産者に対するロイヤルティの品目間比較分析」、サブタイルは「農産物直売所の顧客ID付きPOSデータ分析」、田口光弘氏・柴田静香氏著(2010年)という論文があり、ここで、まさに、青果物、特に、トマト、きゅうり、米のID-POS分析が真正面から取り上げられている。ここでは特に、ロイヤルティに焦点を当てた分析をしており、指標としては、売上金額と顧客ID数を使っているのが特徴である。残念ながら、本ブログで取り上げているID-POS分析の基本方程式、ID金額PI値=ID客数PI値×金額PI値=ID客数PI値×PI値×平均単価、さらには、IDの属性、購入状況に分けた分析等については踏み込まれていないが、シンプルにロイヤリティを見るのであれば、これはこれで、興味深い分析である。
先に結論であるが、トマトは78.9%、米は73.0%、きゅうりは48.6%のロイヤリティ比率となったという。ここでロイヤルティ比率とは「特定の生産者の商品を50%超買っている消費者」の割合のことである。したがって、トマトと米は生産者へ対してのロイヤルティが極めて高く、きゅうりは比較的低いとの結論である。また、この論文では、さらに踏み込み、特定の生産者の商品を80%以上購入しているロイヤルカスタマーはトマトでは51.1%、米では52.2%と高い数字であるのに対し、きゅうりは20.0%という結果であり、大きな差となっている。直観的にはこんな感じかかなとも思えるが、改めて、調査結果の数字を見ると、納得もでき、びっくりでもある。
論文はここで終わっており、取り上げた商品もトマト、きゅうり、米のみであるが、さらに踏み込んだ分析を加え、そこからマーチャンダイジング戦略の仮説(商品戦略)、マーケティング戦略の仮説(顧客戦略)を作っていければ、これまでの単純なPOS分析を補う仮説づくりが可能となり、顧客、商品、生産者間のまさに三位一体の分析が可能となるのでははと思う。
このように、この論文はトマト、きゅうり、米のみの、しかも、ID-POS分析の指標、手法も限られたものではあるが、シンプルにロイヤルティを数値化し、顧客、商品、生産者間の関係を導き出しており、非常に興味深い内容である。ID-POS分析は顧客IDの購入履歴がつぶさに把握できるがゆえに、まさに、ロイヤルティという視点から分析が可能となる分析であり、本来、青果物をはじめ、生鮮食品、惣菜等に活用すべきものであるといえるが、食品スーパーマーケットでも中々、現実には活用しえていないが実態であるといえる。今回はその意味で、食品スーパーマーケットでは把握が難しい、生産者という視点も入ったID-POS分析であり、価値がある分析、そして、結果であったといえよう。是非、続編を期待したいところだ。
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