N003、直売所、インショップを考えてみる!
農産物直売所にとって、さらに農業生産者の所得を向上させるためには、いくつかの方向がある。ひとつは、直売所の客数を増やすことである。ふたつ目は複数の直場所を開設することである。そして、3つ目はインショップ、都市部のGMS、HC、食品スーパーマーケット等へショップ展開することである。これ以外にも、独自の通販、通販業者への出店等が考えられるが、ここでは、この中で、3つ目のインショップについて考えてみたい。
インショップとは文字取り、食品スーパーマーケットの青果売場でいえば、その中に直売所を作ってしまうことである。実際の食品スーパーマーケットで展開されているインショップの売場を見ると、青果売場の平台の一角を直売所にしていたり、全く別の場所で直売所を展開していたり、店頭にテントを張り、直売所を展開するケース等がみられる。そのスペースもまちまちであり、1坪、2坪ぐらいから20坪、30坪ぐらいの場合もあり、その差10倍以上となり、食品スーパーマーケット側としても対応が大きく分かれている。
対応が分かれる最大の要因は売場効率であるといえる。食品スーパーマーケットのB/S(貸借対照表)を分析すると、店舗がらみの資産、土地、建物、敷金保証金等の比率が約70%近くなる。資産を極力持たない食品スーパーマーケットでも40%前後となり、店舗がらみの資産が大半を占めるのが実態である。したがって、この資産を有効に活用するには、1坪当たりの売上、利益をいかに上げるかが経営上は極めて重要な課題となる。特に、都市部の食品スーパーマーケットはコストが高く、十分な坪数を確保できない場合が多い。したがって、1坪当たりの売上、利益がどれだけ確保できるかで、商品のスペース配分を決定せざるをえず、自然、そこから直売所の売場スペースの割り振りが決定されることになるからである。
オオゼキの事例をみるまでもなく、都市部の食品スーパーマーケットの坪売上は1,000万円前後となり、これを1日に換算すると約3万円となり、上限は2,000万円近い坪効率の場所もあれば、500万円ぐらいの坪効率の場所もあるといえる。したがって、直売所に当てるスペースには食品スーパーマーケット側から見れば、坪当たり3万円は欲しいところであり、できれば、4万円、5万円を望みたいところであろう。
一方、農業生産者側からみたらどうか。これは大きく規模によって対応が分かれる。大規模生産農家がインショップに取り組む場合は原則PI値の高い商品が中心となり、トマト、きゅうり、レタス、ほうれんそう、じゃがいも、たまねぎ等となる。この場合、食品スーパーマーケットの青果売場では市場流通から調達する商品と完全にバッティングするため、ワンランク上の商品としてインショップ化するか、思い切って、市場流通を減らし、インショップをメインにもってゆくかの選択となる。通常の売場では顔の見える野菜等のコーナーをつくり、ワンランク上を狙う場合が多いのが実情といえよう。ただ、ここ最近はJA等でも戦略的に取り組む動きもあり、重点商品が市場流通の野菜から徐々に直売商品にシフトする動きも見られる。
これに対し、規模の小さい生産農家がインショップに取り組む場合は、地元の直売所の延長としての売場展開が行われる場合が多い。食品スーパーマーケットにとっては、PI値の高い商品もあるが、むしろ、PI値の低い商品、加工商品なども加わり、バラエティに富んだ商品展開となる。この場合は店内のPI値の高い重点商品とはバッティングせず、むしろ、食品スーパーマーケットの青果の品揃えを補強することにつながり、メリハリが効いた青果売場が形成される場合が多い。
インショップは、このように食品スーパーマーケット側からの事情と生産農家側からの事情がからみ、そのバランスを取りながら現状が動いているといえる。では、このインショップが現状どのくらいのインパクトが食品スーパーマーケット側にあるかであるが、様々な数値を見ると、青果売場の総売上の約10%前後というのが現状といえる。戦略的に取り組んでいる店舗では30%前後まで上がる場合もあるが、押し並べて見れば、10%前後といえよう。したがって、青果の食品スーパーマーケットでの売上構成比がおよそ10%強であるので、全体へのインパクトは1%強と推定できる。その意味で、インショップは食品スーパーマーケット側から見れば1%ビジネスといえ、まだまだ本腰を入れて取り組むにはビジネスボリュームが低いといえる。
逆に、これを生産者側から見ると、100億円の食品スーパーマーケットで1億円、1,000億円の食品スーパーマーケットで10億円の規模となるので、これは、100億円であれば、通常の直売所1店舗分、10億円であれば、大型直売所1店舗分となるので、しっかり食品スーパーマーケットと取組みができれば、直売所の多店舗展開と同じインパクトがあり、インショップは生産者の所得向上に確実につながる試みであるといえよう。
今後、食品スーパーマーケット側がどのようにインショップ戦略を位置づけるか、一方、生産者側としても、インショップ戦略へどこまで本格的な体制を整えられるか、その戦略バランスがどう動くかにより、インショップが今後とも拡大してゆくのか、それとも現状維持か、縮小してゆくかが決まるといえよう。そして、その鍵を握るのが消費者であり、直売商品をどこまで消費者が受け入れるかにかかっているといえよう。
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