出店意欲について
これまで財務3表連環分析をする中で、マーチャンダイジング力、出店余力という食品スーパーマーケットの新たな評価指標を作ってきたが、もうひとつ、新たな指標を提示してみたい。「出店意欲」である。出店余力に良く似た言葉であるが、余力は文字通り、出店の余力が財務上あるかどうかであるが、意欲は出店余力の如何を問わず、出店戦略に経営資源を配分しているかどうかを見る指標である。したがって、出店余力があっても出店意欲がない、逆に出店余力がなくても、出店意欲があるということも当然起こることであり、出店意欲はまさに経営判断、経営の強い意志が反映された指標であるといえる。
では、出店意欲とはどのような指標かであるが、これまでマーチャンダイジング力はP/L(損益計算書)から導かれた指標であり、キャッシュの源泉が商品売買からどのくらい得られているのかを見る指標であった。また、出店余力とはB/S(貸借対照表)から得られる指標であり、純資産(自己資本)でどこまで出店にかかわる資産、土地、建物、敷金保証金等を賄っているのかを見る指標であった。そこで、出店意欲であるが、これはP/L、B/SよりもCFに視点をおいた指標であり、経営の意思が最も強く表れるキャッシュの配分を前提に指標化されたものである。
数式を示せば、現在の店舗数/(出店にかかわる投資キャッシュフロー/(出店にかかわる資産/現在の店舗数))であり、単位は今期、及び将来の出店店舗数の伸び率を表した指標である。ごく簡単にいえば、今後、どのくらい成長を見込んでいるかという経営判断、経営の意思を表した、まさに、出店意欲を示した指標である。これを解説すると、(出店にかかわる資産/店舗数)で現在の店舗当たりの出店にかかわる資産が算出できる。これはB/Sから得られる指標である。そして、出店にかかわる投資キャッシュフローを、この指標で割ることによって、現在、そして、今後、どのくらい店舗数を増やしてゆく意思があるのかがわかる。
ここで、キャッシュフローが登場する。このキャッシュフロー、出店にかかわる投資キャッシュフローは、営業活動により得られたキャッシュフローから出店にかかわる資産、すなわち、固定資産、敷金保証金等へどのくらい配分したかの経営判断、すなわち、経営の意思が反映されたものであり、ここに、経営陣の意思、意欲があらわれるといえる。財務的には新規出店が厳しい状況にあっても、将来を考え、思い切ってキャッシュを新店に振り向ける場合もある。あるいは、営業活動によるキャッシュフローは薄いが、内部留保で投資をする場合もある。また、それも薄い場合でも外部調達、有利子負債を調達して投資をする場合もある。逆に、キャッシュは豊富にあるにも関わらず、投資をしない場合もあり、まさに、ここに出店への意欲が強く反映されるといえる。そして、この店舗数を現在の店舗数で割れば、どのくらい現状から店舗を増加させようといるかが算出でき、将来の成長戦略を推し量ることができる。
意欲という抽象的な言葉もこのように数値化してみると、かなり、実態に近い数値に変換されるといえ、これを各食品スーパーマーケットで算出し、比較して見ると、現状の食品スーパーマーケットの経営陣がどのような出店意欲をもっているかを推し量かることができる。少なくとも、P/L、B/Sを眺めていただけでは分かりにくいといえ、このように出店意欲を数値化し、さらに、マーチャンダイジング力、出店余力等と比較すると、より、出店意欲が鮮明に浮かびあがり、経営陣の意思、意欲を感じとることができるのではないかと思う。
そこで、実際の出店意欲を決算公開企業約50社の2010年度の財務3表連環分析をもとに算出してみると、出店意欲が15%以上の食品スーパーマーケットは、マックスバリュ東海35.8%、マックスバリュ西日本28.7%、アオキスーパー23.6%、九九プラス18.8%、オーケー18.5%、マックスバリュ東北18.1%、ヤオコー17.8%、ハローズ17.7%、大黒天物産15.2%となる。イオングループのマックスバリュの出店意欲が高いのが特徴である。マックスバリュ東海、マックスバリュ西日本ともに極めて高い数字であり、マックスバリュ東北も高い数字であり、いずれも出店意欲が高い。また、アオキスーパー、九九プラス、ヤオコー、ハローズ、大黒天物産も出店意欲が高く、今後、成長性が見込まれる可能性が高いといえよう。
このように、出店意欲は、これまで開発した食品スーパーマーケットの経営評価指標、マーチャンダイジング力、出店余力につぐ、3つ目の指標として、今後、活用可能といえ、CF(キャッシュフロー)を評価する新たな指標としても、こと、食品スーパーマーケットの経営戦略を見極める上においても重要な指標といえよう。しばらく、この指標をもとに、実践的な分析を行い、今後、財務3表連環分析に組み込んでゆければと思う。これで食品スーパーマーケットの実践的な評価指標がP/Lからマーチャンダイジング力、B/Sから出店余力、そして、CFから出店意欲が揃ったことになり、財務3表連環分析も文字通り、連環度を深め、より完成度が高まったといえる。
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