出店余力と出店意欲について
出店余力と出店意欲、余力と意欲の違いだが、言い得て妙、実に興味深い指標である。もともと出店余力という食品スーパーマーケットの成長戦略を占う独自の分析指標を先に創り、昨年まではこの出店余力を食品スーパーマーケットの財務分析にあたっての重要な指標のひとつとして活用してきた。その後、この出店余力を分析してゆく内に、奇妙な食品スーパーマーケットの実態が浮かび上がった。たとえば、出店余力が十分にあるにも関わらず、新規出店への投資にキャッシュフローを配分していない食品スーパーマーケット、逆に、出店余力がないにも関わらず、新規出店への投資を異常に配分している食品スーパーマーケットが出てきたことである。
このようなケースが例外的にではなく、かなり多く発生したため、出店余力=新規出店による成長ではないという事実が浮かびあがった。食品スーパーマーケットの経営者は出店余力を考慮して、成長戦略を構築するのではなく、自らの強い意志がある場合には出店余力がなくても、新規出店を敢えて行い、成長を目指すこともある。また、逆に、出店余力が十分にあるにも関わらず、新規出店への投資を控え、内部留保を蓄え、消極的な経営を行う経営者もいるということが浮かびあがった。そこで、出店余力という指標だけでは、食品スーパーマーケットの成長戦略を説明しきれないと思い、新たな指標がないかと、改めて財務3表を見直してみると、キャッシュフロー、特に、投資活動におけるキャッシュフローの存在がクローズアップされた。
食品スーパーマーケットの投資活動によるキャッシュフローを見ると、ほぼ100%近くが新規出店関連への投資であり、その中身は有形固定資産の取得と敷金保証金等への投資で占められている。もちろん、この有形固定資産は店舗以外、たとえば、本社屋、物流センター等への投資も考えられるが、これらは頻繁に発生する訳ではなく、その大半は新規出店への投資と見なして良いといえる。したがって、この投資活動によるキャッシュフローを見ることによって、食品スーパーマーケットの新規出店への戦略が見えるのではないかと考えた。
そもそもキャッシュフローはP/L、B/Sよりも、経営者の意思が強く反映される財務指標であるといえ、特に、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローにはまさに経営者の葛藤がにじみ出ているといえる。したがって、新規出店戦略における経営者の意思が強く反映される投資活動によるキャッシュフローをみることによって、経営者の出店戦略を読み取ることができるはずだと考え、出店意欲を指標化しようと試みた。
これが出店余力に対して、出店意欲という指標が新たに生まれたきっかけであるが、問題はこの出店意欲をどう指標化するかが課題となった。そこで、考えたのは、出店関連の資産、有形固定資産と敷金・保証金等の合計がいったい何店舗分にあたるかが算出できれば、その投資金額を通じてどのくらいの規模の成長戦略を経営者が描いているかがわかるはずであると思い、この指標化を試みた。そこで、いろいろ検討してみた結果、たどりついたのが現状の1店舗当たりの出店にかかわる資産を算出し、この数字を新規出店関連の投資活動によるキャッシュフローで割れば店舗数が算出される。さらに、この店舗数を現状の店舗数で割れば、大よそであるが、今後の成長率をかなりの程度反映しているであろうと考え、算出した指標が出店意欲である。
実際、2010年度の本決算における決算公開企業約50社でこの出店意欲を算出してみると、ほぼイメージに近い数字となり、まさに、経営者の成長戦略への強い意志を感じる指標となった。そして、この出店意欲とすでに算出している出店余力とを見比べてみると、最初に感じた違和感通りの結果となった。すなわち、出店意欲の高い食品スーパーマーケットは必ずしも出店余力があるわけではなく、逆に、出店意欲の低い食品スーパーマーケットが十分な出店余力がある場合もあり、まさに、経営者の強い意志が出店意欲には反映されていることが読み取れる指標となった。
ちなみに、2010年度の決算公開企業約50社の出店意欲と出店余力の関係であるが、出店意欲A15社の内、出店余力がAとなったのは2社、Cとなったのは8社であり、Cが最も多く、出店余力に関わらず、新規出店への強い経営者の意思が感じられる結果となった。一方、逆に出店意欲がCの10社であるが、Aが1社、Cが6社であり、Cは順当な経営判断であると思うが、A、そして、残りBの3社の経営者は出店意欲が弱く、やや消極的な経営判断をしているといえよう。
このように、出店意欲と出店余力は意欲と余力の違いであるが、前者はキャッシュフローを中心に創った指標であり、後者はB/Sを中心に創った指標であり、その背景は異なっている。実際、この指標で分析してみると、出店意欲からは経営者の意思が読み取れ、出店余力からは経営者の成長戦略の結果が読み取れ、双方、バランス良く見ることが食品スーパーマーケットの経営の実情を見る上において重要なことがわかる。今後、さらに、工夫し、食品スーパーマーケットの経営の核心に迫りたいと思う。
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