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November 27, 2010

キャッシュフロー、ホールフーズマーケットを見る!

   前回に引き続き、ホールフーズマーケットの2010年9月期の本決算を取り上げて見たい。前回がP/Lを取り上げたので、今回はこの好調な決算を受けて、ホールフーズマーケットのJohn Mackey氏(CEO: co-chief executive officer and co-founder of Whole Foods Market)の意思が最も強く反映されるキャッシュフローに焦点を当て、彼がどのようにキャッシュを配分したか、経営の意思を垣間見てみたい。

   まずは、営業活動によるキャッシュフローであるが、今期は大幅な増益となったが、585,285千ドル(昨年587,721千ドル)と、昨年とほぼ同じ、日本円で約500億円となった。これは、当期純利益は245,833千ドル(昨年146,804千ドル)と167.4%の大幅な伸びとなったにも関わらず、買掛金、在庫、その他の資産が増加したため、昨年と比べキャッシュを使ったためである。売上高が好調であったがゆえに、積極的なマーチャンダイジングの強化をはかったためであるといえよう。

   次に、キャッシュフローの中でも将来戦略が強く反映される投資活動によるキャッシュフローであるが、-715,406千ドル(昨年-386,283千ドル)であり、昨年の約2倍のキャッシュを配分している。John Mackey氏の強い意志が感じられる。その中身であるが、意外なことに、Purchase of available-for-sale securities、すなわち有価証券に-1,072,243千ドル、約900億円購入しており、営業キャッシュフローの総額を超える金額を投資している。びっくりである。成長戦略、すなわち、土地、建物等へは-171,379千ドル(昨年 -247,999千ドル)と、昨年と比べ削減し、わずか約140億円であり、この配分を見る限り、昨年よりも出店は控えるものと思われ、来期は既存店の活性化に注力するものと思われる。ただ、それにしても、これだけ有価証券への思い切った投資はびっくりであり、それだけ、短期では有価証券の価値が大きく高まるという読みであろう。

   しかも、営業活動によるキャッシュフローの約2倍の有価証券への投資であるので、当然、フリーキャッシュフローは-130,121千ドル(昨年201,438千ドル)、昨年と一転、マイナスとなり、その分のキャッシュの調達が必要となる。したがって、新たにキャッシュを調達してまで、有価証券に思い切った投資を行ったということであり、これが、John Mackey氏の経営者としての、まさに経営決断であるといえよう。この決断を見ると、今後、アメリカの金融市場は大きく伸びる可能性があるといえ、ホールフーズマーケットの動きはもちろん、アメリカ、そして、今後の世界経済の動向に注目といえよう。

   さて、問題はホールフーズマーケットがマイナス分のフリーキャッシュフローの資金をどう調達したかであるが、一般には2つの方法がある。ひとつは、財務活動によるキャッシュフロー、すなわち、有利子負債を増加させるか、資本金を増加させる方法であり、もう1つは、内部留保を取り崩す方法である。そこで、財務活動によるキャッシュフローを見てみると、-168,906千ドル(昨年199,455千ドル)と、さらにマイナス、むしろ、マイナスを増加させており、財務活動によるキャッシュの調達を選択しておらず、結果、内部留保を取り崩している。ただ、株式の発行が46,962千ドル(昨年4,286千ドル)あり、昨年同様に実施し、資本金の増強をはかっているが、財務活動によるキャッシュフローのマイナス分はカバーしきれていない。

   そこで、財務活動によるキャッシュフローの中身を見ると、有利子負債の返済が -210,350千ドル(昨年-318,370千ドル)と、ここにキャッシュを配分している。ただ、昨年は同時に借入も実行していたため財務活動によるキャッシュフローが増加したが、今期は新たな借り入れはしておらず、そっくり返済にキャッシュを配分しており、内部留保を投資活動によるキャッシュフローと財務活動によるキャッシュフロー、双方に配分していることがわかる。

   では、どのくらいの金額を内部留保から取り崩したかであるが、-298,134千ドル(昨年399,596千ドル)であり、このキャッシュを投資活動によるキャッシュフローと財務活動によるキャッシュフローに配分したといえる。したがって、B/Sの現金が131,996千ドル(昨年430,130千ドル)と大きく減少しており、財務的にはキャッシュが減少するというリスクを負ったことになる。ただ、このリスクを負っても、いまは投資、特に、有価証券を購入しておくべきとのJohn Mackey氏の強い意志が働いたといえ、異例のキャッシュフロー戦略といえよう。

   ちなみに、ホールフーズマーケットの純資産比率は59.53%(昨年43.00%)であり、昨年と比べても、比率を見ても、安定しており、財務状況は健全であるといえる。これは増資と好調な決算による利益増が大きく、この安定した財務改善があったがゆえに、今期、異例ともいえる思い切ったキャッシュフロー戦略を打ち出したともいえよう。

   このように、キャッシュフローには今期のホールフーズマーケットの決算のように、経営者の強い意志が反映される。John Mackey氏はCEOであり、創業者の1人でもあるがゆえに、カリスマ性を備え、かつ強力な権限をもっており、今回のような異例のキャッシュの配分が可能であったといえよう。通常はここまで有価証券にキャッシュを配分、しかも、内部留保を取り崩してまで配分するという荒技はできないといえるが、これがキャッシュフローの本質であるといえ、ここに経営者の強い意思を読みとることができる。それにしても、John Mackey氏、恐るべき経営者である。

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