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January 03, 2011

「馴染み客」と「一見さん」

   ID-POS分析はIDそのものがIdentification、直訳すると識別、すなわち、個人の識別を意味し、日本語に馴染みにくいものがある。したがって、実際に分析、活用する上においても、いまひとつ使いにくい。特に、ID-POS分析の極意ともいえる頻度を表現する言葉もリピート、トライアルという言葉が定着しつつあり、そのイメージが理解しにくいものがある。そこで、新たな試みとして、ID-POS分析の翻訳に取り組んでみたい。いずれ、基本理論、数式、数表、活用方法、用語集等にまとめてみたいと思うが、今回は、ID-POS分析の原点ともいえるリピートとトライアルについて翻訳を試みてみたい。

   実は、ID-POS分析でリピートとトライアルを区別するのは難しい。なぜなら、ID-POS分析は時間が極めて重要な概念であり、分析対象が1日なのか、1週間なのか、1ケ月なのか、さらには1年、10年、100年なのかが問われるからだ。すべてを1週間単位に換算することもあるが、通常は、分析期間がまちまちである。通常のPOS分析でも期間があるが、その検証指標である金額PI値は期間が変化しても大きく変化することはあまりない。ところが、ID-POS分析の検証指標であるID金額PI値は時間とともに大きく変化し、時間を特定しないと差異を論じることができない。したがって、時間が極めて重要な概念であり、リピート、トライアルもどう定義するかは慎重に判断することが必要となる。

   たとえば、1週間で1回の購入をトライアルとするか、1ケ月で1回をトライアルとするか、1年、10年、100年で1回をトライアルとするか、同じ1回でも価値が全く違い、トライアルを正確に定義することは難しい。同様に、リピートもトライアル以外とすれば、すべて2回目以降がリピートとなり、これもそれぞれの価値が違い、定義が難しい。したがって、単純な回数で定義することが難しく、ID-POS分析においては、リピート、トライアルをどう定義するかは工夫が必要であるといえる。

   そこで、どう工夫するかであるが、ポイントは時間に応じて価値の変わらない定義が必要であるといえ、絶対的な定義ではなく、相対的な定義が必要であるといえよう。たとえば、1週間であれば1日、1ケ月であれば1週間、1年であれば1ケ月、10年であれば1年、100年であれば、10年のようにトライアルを定義し、それ以上をリピートと定義するということが一案である。これ以外にも様々な定義方法はあると思うが、ポイントは相対的な定義がID-POS分析には必要であるということである。

   したがって、これを前提にリピートとトライアルを日本語に翻訳すると、相対的な曖昧さも加味し、リピートを「馴染み客」、トライアルを「一見さん」とすると、しっくりくるのではないかと思う。リピートに関しては、これ以外にも、「お得意さん」、「ご贔屓さん」も候補である。「一見さん」に関しては、中々ぴったりくる言葉が見つからないが、これ以外では、それこそ「お客さん」が意外にフィットしているともいえる。しかも、これらの言葉はいずれも日本の商いの中で、古くは江戸時代から使われていた言葉でもあり、商いの復権にもつながり、イメージ的にもズレがないように思える。

   思えば、戦後、チェーンストア理論がアメリカから輸入されて以来、戦前の商いは否定され、それまで日常的に使われていた商いの言葉がすべてといっていいほど英語化され、カタカナで商売が語られるようになった。これに拍車をかけたのがPOSシステムであり、このPOSシステムが普及したことにより、「客」という概念が消えてしまい、無味乾燥な「レシート」が「客」にとって変わった。

   レシートからは頻度が算出できないため、瞬間瞬間の数字がブツ切れ的に把握できるのみであり、そこには「客」という継続性のある数字の把握ができず、「客」そのものの概念が存在しなくなった。「馴染み客」を把握することも、「お得意さん」をつかむことも、ましてや「ご贔屓さま」を知ることもPOSシステムからは不可能である。

   それが、時代がめぐり、POSシステムからID-POS分析の時代が訪れるようになると、はじめてレシートから、ID、すなわち、顧客の把握、個々の顧客の継続した買い物履歴の把握(頻度)が把握できるようになり、顧客がはじめて見えるようになった。したがって、頻度の高いリピート顧客を「馴染み客」、頻度の低いトライアル顧客を「一見さん」と呼んでも違和感はないといえ、むしろ、イメージ的にも、概念としてもふさわしい呼称であるといえよう。

   このように、これまでID-POS分析は日本の商売とかけ離れた分析ではないかと思われていたが、実は、日本の商いの原点に迫った分析であるといえ、日本古来の商いの復権につながるともいえる。したがって、これまで慣れ親しんできた日本の商いの言葉をむしろ積極的にID-POS分析にて活用すべきであるといえ、これにより、逆に日本古来の商いの原点へ迫ると同時に、商いで培われた秘伝、口伝を検証し、取捨選択しながら、日本独自の、しかも、世界に通用する次世代の商いを作り上げる時が来たのではないかと思う。その意味で、ID-POS分析はカタカナ英語よりも、日本語を大いに活用し、可能な限り日本語で概念化し、理論構築を試み、実践に活かしてゆくべきであろう。

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