N015:商店街、直売、自治体間連携を考えてみる!
大都市中心部の直売所を通じての農業者所得向上流通調査事業の最終報告書づくりに入っているが、この調査事業を通じて様々な事実が浮か上がってきた。調査結果については、いずれ、セミナー、ホームページ等を通じて公表してゆく予定であるが、ここでは、その中で、特に今後の大都市中心部の直売システムの発展に強い影響を与えるであろうテーマ、商店街、直売、自治体間連携について考えてみたい。
当初、調査事業をはじめた時は、商店街と直売とはそれほど、深い関係があるとは思っていなかった。したがって、前半の調査は直売所を中心にもっぱら調査に取り組んでおり、特に、首都圏に関しては各都道府県の協力をいただき、結果、1,115件の主要直売所を分析し、これらの実態を踏まえ、大都市中心部の直売の実態、特に、青果専門店、食品スーパーマーケット、量販店、ネットスーパー、ネットショップ、宅配等との関係を探ってゆこうと考えていた。
ところが、この方針が北海道での現地調査に入った瞬間に一変することになる。HUGの調査である。HUGはもともとは商店街の空き店舗を活用した札幌市のアンテナショップであったが、そこに直売というコンセプトが加わり、恐らく、日本ではじめての本格的な大都市中心部の直売所に脱皮した事例であるといえる。HUGでは店長にヒアリングし、HUGに参加している生産者にもヒアリングし、そして、札幌市にもヒアリングし、北海道庁にもヒアリングし、さらに、数多くの文献も調査した。
その結果、何と、私の地元、板橋の大山商店街のアンテナショップ、とれたて村がモデルのひとつになっており、さらに、武蔵野市のアンテナショップ、麦わら帽子もモデルであったことがわかった。北海道に来て、地元がHUGの原点であったことがわかり、その後、とれたて村と板橋区、麦わら帽子と武蔵野市にもヒアリングを行い、その結果を整理し、その関係と相互の影響、その後の発展を整理してみると、今後の大都市中心部の直売システムの方向性がはっきり見えるようになった。
大都市中心部における直売システムは単独での成功はかなり厳しいものがあり、大都市特有のネットワークを駆使した直売システムをつくる必要があるという点である。この3つの直売ないしは産直を取り入れたアンテナショップはいくつかの共通の成功要因がある。その最大の要因は農産物をメインにした本格的な直売の仕組みをつくりあげようとしていることである。
そして、もうひとつの大きな要因は、商店街と自治体が強力にバックアップしていることである。アンテナショップのアンテナとは自治体間連携で以前からつながりの深い地方自治体の特産物の販売拠点になるということであるが、この特産物に農産物がメインとなったことが大きいといえよう。その結果、地元の消費者、商店街にきている消費者からの圧倒的な支持を受け、従来のアンテナショップでは見られない活気を帯びた光景がある。特にHUGは直売所そのものといってもよく、大都市中心部にできた常設の本格的な直売所といえよう。
当然、自治体としては、軌道に乗るまで、いずれも3年間程度補助金が出るが、その後は独り立ち、民間での運営になる。とれた村、麦わら帽子はすでに、補助金も終了し、黒字化し、現在は独自に運営している。HUGは3年目の最終年度に入っており、来年以降は、自らの力で運営してゆくことになるが、今の勢いを見ていると、3つのアンテナショップの中でも最も売上高が高く、恐らく、このまま軌道に乗るものといえよう。
板橋区、武蔵野市のその後を見ても、補助金が終了しても、様々な形で支援しており、現状を見ると、アンテナショップ、商店街、自治体のトライアングルが形成され、3者合同のイベント等が見られる。たとえば、板橋区と商店街、とれたて村では、とれたて村が年間100回を超える板橋区との姉妹都市の農産物を中心とするイベントを開催しているが、この開催を大山商店街だけでなく、板橋区の全商店街が一同に同時多発的に開催するなど、他の商店街を通じて、板橋区民全体へ波及するようなことも試みられている。
このように、大都市中心部においての直売システムは、単独での直売システムのみでは無理があるといえ、大都市特有の商店街との連携、そして、大都市の自治体、さらには、大都市の自治体と連携をもつ各地の自治体との連携が不可欠であるといえ、この連携の中心に農産物の直売が乗った時、消費者から絶大な支持が得られる仕組みができあがるといえる。
今回、この商店街のアンテナショップ以外の大都市中心部における直売システムについても様々な現状を調査したが、その中でもすでに、全国主要都市で定着したといえるマルシェも、この動きと連動がはかれると、双方にとって相乗効果は大きいといえる。その意味で大都市の直売システムは個々に発展してゆくことも大事であるが、それぞれが相互に連携をはかり、大都市全体が活性化してゆくような点ではなく、ネットワーク型の大都市特有の直売システムの構築が大きな課題であるといえよう。
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