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May 25, 2011

東京電力の2011年3月期決算を見る!

   東京電力が5/20、2011年3月期の決算を公表した。結果は売上高5兆3,685.36億円(7.0%)、営業利益3,996.24億円(40.5%)、経常利益3,176.96億円(55.5%)、当期純利益-1兆2,473.48億円と営業、経常段階では特に利益が大幅な増収増益となったが、当期純利益は、「東北地方太平洋沖地震により被災した資産の復旧等に要する費用または損失1兆204億円等を計上」したため大幅な赤字となった。また、自己資本比率は10.5%(昨年18.7%)となり、大きく減少、負債が90%弱となる厳しい財務状況となった。

   気になるのは、今回の決算で、「継続企業の前提に関する注記」が加えられたことである。この中で、冒頭に、「東北地方太平洋沖地震により被災した福島第一原子力発電所の事故等に関する原子力損害について、わが国の原子力損害賠償制度上、・・、当社グループの財務体質が大幅に悪化し継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在している。・・」とのことで、財務的に厳しい状況になりうるとのことである。また、今回政府が公表した「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組み」についての詳細が、「今後の検討に委ねられていることや、立法化については今後国会での審議が必要となることを踏まえると、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる。」とのことである。したがって、今回の決算は、「継続企業を前提して作成しており、継続企業の前提に関する重要な不確実性の影響を連結財務諸表に反映していない。」とのことある。

   要は、今後の損害賠償等の影響を今回の決算には反映していないということであり、反映するにも、政府の支援の詳細が国会審議に委ねられており、現時点では判断のしようがないという中での決算結果ということである。したがって、状況次第では、決算結果は大きく変動することがあり、結果、企業が今後とも存続できるかどうかは、判断ができないということであり、東京電力が自らの経営努力で企業を存続させることが極めて厳しい現状にあるという結果といえよう。

   今期の東京電力の決算では、営業段階では増収増益となったが、この数字は小売業において見ると、どのクラスの決算結果に近いかを見てみたい。まずは、セブン&アイHであるが、2011年2月期決算の結果は、営業収益5兆1,197.39億円(0.2%)、営業利益2,433.46億円(7.4%)であり、ほぼ同じ営業規模である。次に、イオンであるが、営業収益5兆965.69億円(0.8%)、営業利益1,723.60億円(32.4%)と、営業利益はやや下がるが、営業規模はほぼ同じである。したがって、小売業では、セブン&アイH、イオン、クラスの営業規模の企業が国家的な規模での財務負担を強いられるわけであり、「継続企業の前提に関する注記」がつくのは、当然といえば当然といえよう。

   しかも、今回の決算では自己資本比率がわずか10.5%となっており、金額では純資産が1兆6,024.78億円、総資産14兆7,903.53億円と比べると、実に厳しい状況にあるといえる。ただ、今期のキャッシュフローを見ると、キャッシュは現時点ではバランスがとれている。営業活動によるキャッシュフローは、本来、大きくマイナスになるのではと思われるが、今期は9,887.10億円(昨年9,882.71億円)と、昨年とほぼ同じ金額である。これは、災害特別損失として、1兆204.96億円が計上されたためであり、この分が当期純利益の赤字分を相殺している。そして、投資活動によるキャッシュフローであるが、-7,919.57億円(昨年-5,992.63億円)と、ここでも昨年に近い投資をしており、結果、フリーキャッシュフローは1,967.53億円(昨年3,890.08億円)とプラスである。

   これを踏まえて、財務活動によるキャッシュフローであるが、1兆8,595.79億円(昨年-4,950.91億円)と大きくプラスとなった。これは、長期借入による収入が2兆766.77億円あったためであり、結果、今期のキャッシュフローは2兆531.16億円(昨年-1,055.96億円)と大きくプラスに転じている。資産の現金及び預金も2兆2,482.90億円(昨年1,801.83億円)と大きくプラスになり、一見、営業面では厳しい結果であるが、キャッシュフロー面ではキャッシュを十分に確保した決算となった。

   こう見ると、この2011年3月期の東京電力の決算結果は、先行き不透明な経営見通しの中、当面のキャッシュは確保したといえる状況にあり、不安定な中でもキャッシュのバランスをギリギリで保っている状況といえよう。ただ、実際に莫大な損害賠償が現実のものとなり、さらに、福島原子力発電所の廃炉に多額の費用が発生した場合、今回の政府のスキームで耐えられるのか、予断をゆるさない状況が続くといえる。

   このように、今回の東京電力の決算結果を見る限りでは、当期純利益は-1兆2,473.48億円と、大幅な赤字となったが、キャッシュフローでは、営業活動によるキャッシュフローもプラス、結果、フリーキャッシュフローもプラスになり、さらに、長期借入を実施したため、最終的なキャッシュは2兆531.16億円のプラスとなり、現時点では豊富なキャッシュを確保した決算となった。一方、今回の原子力災害の財務スキームの国会審議はこれからであるといえ、これ次第では、継続企業の前提が崩れかねないといえる。まずは、今国会での審議結果が最終的にどのような決着となるかが、継続企業の前提を決めることになるといえ、この国会の審議の結果に注目である。 

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