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September 04, 2015

伊藤レポート、その2:日本企業のROEの現状!

伊藤レポート:最終報告書
・「持続的成長への競争力とインセンティブ、~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト
・http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140806002/20140806002-2.pdf
・http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140806002/20140806002.html

3 ROE と資本コスト、資本規律:
・論点:
・日本企業の ROE 水準は国際的に見て相当に低いのではないか。それを是認する何らかの根拠ないし理由はあるか。

日本企業の ROE 水準:
01:
・日本企業の ROE(自己資本利益率)は、最近上昇する傾向を見せているが、これまで長期にわたり他国に比べて低い水準にあった。また、他国よりもばらつきが少なく、低位集中傾向にあることが特徴である。
02:
・ROE が低い結果、日本企業は将来の企業価値創造に対する期待を表す PBR(株式純資産倍率)が他国に比べて相対的に低い水準にある。
構成要素から見た低 ROE :
03:
・ROE を構成要素に分け、売上高利益率、資本回転率、レバレッジの日米欧で比較すると、回転率やレバレッジには大きな差がないが、売上高利益率が低いことがわかる。
04:
・業種ごとに見ると、回転率やレバレッジの状況には差が出てくるが、日米欧で比較していずれのセクターでも日本は ROE、売上高利益率ともに低い。また、一般的に製造業や資本財産業が多いので ROE が低いのではないかとの話もあるが、データからはそのような傾向は見られない。
05:
・一方、日本企業の中でも高 ROE を達成している企業は利益率も高い。したがって、高ROE は(欧米企業の文化であり)日本になじまないということはない。これに関連して、(日本にも多く ROE 等が低い傾向にある)資本集約的な企業こそ、資本市場を活用するために、ROE や ROIC を高める必要があるとの見方も示された。
低 ROE の要因は何か :
06:
・上記のとおり、日本企業の全般的な低 ROE は低い収益性(売上高利益率)に起因するところが大きい。売上高利益率は、日本企業においても重要な経営指標として意識されており、これを高めるため付加価値向上や差別化、コストダウンに取り組んでいるが、結果として低い水準となっているのは何故か。
07:
・その要因としては、前述した持続的成長企業の競争力の源泉となる差別化やポジショニング、事業ポートフォリオの最適化、イノベーションやリスク・変化対応が十分でなく、過度な低価格競争を余儀なくされていることなど企業の収益力・競争力に課題があることが挙げられる。また、ある企業からは、関連するその他の要因として、低収益事業からの撤退において解雇が難しいこと、サプライチェーンにおいて自社のみ突出した利益を上げることを是としない経営風土、長期的な取引関係においてマージンを長期的に均す傾向等が仮説として挙げられた。また、高い法人実効税率やエネルギーコスト、硬直的な労働規制といった制度・インフラ面での高コスト構造も課題として指摘されている。
08:
・また、後述するように、現預金等の多さが ROE 水準を引き下げている面もある。総資産に占める現預金・有価証券の割合が多いことは、国債利回りが 1%を下回る状況ではROA の引き下げ要因となる。この点に関し、米国にも多額の現預金を保有している会社があるが、これらの企業の大半は非常に高い利益率を背景に ROE は平均以上となっていることが指摘されている。
09:
・その他の要因として、経営者等の ROE に対する意識の問題や銀行を中心とした資金調達やガバナンス構造の影響が指摘された。
10:
・経営者等の意識については、後述(経営指標としての ROE)するように意識の低さというよりも経営指標として納得感が得られていないことや事業レベルへの落とし込みにくさが影響を与えている。
11:
・間接金融中心の構造については、銀行による財務審査や債務格付けを重視し、むしろ資本を厚く持つ方向でインセンティブが働いていることが指摘されている。また、ガバナンス面でも社外取締役等に銀行出身者が多く、債権者的視点が強まることで企業価値最大化への投資が実施されにくい面があるのではないか等の指摘があった。また、当面エクイティファイナンスの必要性を感じていない上、デットの調達コストが安いことも銀行ファイナンスを重視する視点につながっている。

【提言・推奨】
12:
投資家に長期投資を促すにしても、日本企業の株価が長期的に上昇トレンドになければ実現しない。株価が停滞もしくは長期的に下落する中では、長期投資は成立しない。そうした環境下では、短期売買によってリターンを取りに行くという行動が合理的となってしまう面がある。
13:
・まずは投資家が最も重要視する指標であるROEを国際水準と比べてそん色ないところまで引き上げる努力を行うべきである。
14:
・企業が ROE 等で示される収益力を向上し、付加価値を高めることは、日本経済の好循環、持続的成長につながる。給与や人材投資の増加、研究開発や設備投資のための原資確保、企業の資金調達の多様化、株式市場を通した年金パフォーマンスの改善、税収確保、ひいてはグローバルな競争力を評価した海外からの投資の拡大など、さまざまなプラス効果が期待できる。
15:
・最低限資本コストを上回る ROE への向上を必達目標にし、日本が、魅力ある企業立国やものづくり立国であるとともに、企業価値を創造するビジネスモデルを通じて投資収益を高めていく投資立国としても再生していくことを目指す気概をもって、互いにこれを意識の中にすり込み、着実に実践していくことが求められる。
16:
・この際、短期的な観点から ROE や利益率を捉えるのではなく、中長期的な ROE の向上が企業価値向上に向けた原資となり、それが様々なステークホルダー価値を高め、長期的な株主価値に結びつくという「企業価値経営」を実現することが肝要である。これは企業ごとの業種特性や競争環境を勘案して、投資タームを設定しつつ、キャッシュフローの創出を目指す「キャッシュフロー経営」とも言え、キャッシュフローの使い方として事業拡大に向けた再投資と株主還元の適切な配分を判断することが重要である。その際、配当性向が一定の場合、内部留保の分だけ株主資本が増加していくために、ROE 水準を維持するための最低成長ラインが必要となる。この「サステイナブル成長率」を注視することも重要な視点である。

PI研のコメント:
・伊藤レポート、その2です。ここでの論点は、「日本企業の ROE 水準は国際的に見て相当に低いのではないか。それを是認する何らかの根拠ないし理由はあるか。」です。これに対する答えは、「3」にあり、「ROE を構成要素に分け、売上高利益率、資本回転率、レバレッジの日米欧で比較すると、回転率やレバレッジには大きな差がないが、売上高利益率が低いことがわかる。」とのことです。ここではROE=売上高利益率×資本回転率×レバレッジの3つの要素に分解して、それぞれを日米欧で比較した結果、日本企業のROEの低さは売上高利益率にあるという事実が浮かび上がったとのことです。ちみに、売上高利益率=利益/売上高、資本回転率=売上高/総資産、レバレッジ=総資産/純資産(純資産比率:自己資本比率の逆数)ですので、この3つを掛けると、売上高と総資産が約分され、利益/純資産となり、ROEとなります。また、「16」では「キャッシュフローの創出を目指す「キャッシュフロー経営」とも言え」ともいっており、ROEを重視する経営はキャッシュフローを重視する経営でもあるとのことで、興味深いといえます。

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