伊藤レポート、その3:ROE8%が目安!
伊藤レポート:最終報告書
・「持続的成長への競争力とインセンティブ、~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト
・http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140806002/20140806002-2.pdf
・http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140806002/20140806002.html
3 ROE と資本コスト、資本規律:
論点:
・ROE をめぐって投資家と経営者の間にミスマッチがあるのではないか。
ROE に対する認識の違い
01:
・日本企業と投資家の間には、ROE について認識のミスマッチがある。多くの投資家は企業を評価する際の最も重要な指標の一つとして ROE を捉えているが、企業サイドでは重要な指標であっても、それを必ずしも最重視しているわけではない。実際の経営実務に使いにくい面(現場に落としにくい等)があり、(無借金経営を是とする考え方もあって)レバレッジの考え方が馴染まない面もあるからである。
投資家が求めているもの
01:
・投資家は何がなんでも ROE を最重視すべきと主張しているわけではない。ROE 至上主義ではないが、低 ROE のままでは価値創造企業と言えないとの認識がある。投資家が重視しているのは内部留保を再投資して成長原資とすることであり、もし有効活用できないのであれば、今後の成長への道筋としてその活用方法を株主還元も含めたビジネスプランとして示し、ステークホルダーと共有することである。
02:
・特に投資家は、資本コストを意識して ROE 向上を目指す経営を望む。資本コストは投資家の要求収益率をベースにした価値創造の分岐点であり、その目途を明確に立てて事業に取り組んでほしいと考えている。ROE 極大化を目指すかどうかは議論が分かれるが、最低限資本コストを超える ROE を目標にすべきとの考えは共通している。その目安として、8~10%、グローバル企業は世界の投資家を引きつけるために欧米並(15%レベル)を目指してほしいとの指摘があった。
03:
・一方、ROE は経営の結果であり目的ではないこと、すなわち、適切な事業領域への進出(会社の経営資産の適切な評価)や適切な商品開発・提供等により、持続的成長への競争力を高め、継続的にキャッシュフローを創出・増加する結果として向上するものとの認識が確認された。ROE を高める素質を持つ企業は数多くあるが、企業価値創造の仕組みを十分に差別化できず、個性が発揮できていないため、低 ROE に留まっているとの指摘もある。
経営指標としての ROE
04:
・企業側では、ROE や資本コストについて、外部に説明するためには共有はするが、社内では使っていないという声もある。CEO や CFO 等経営トップは理解しても、事業部門長や従業員にとって ROE は無縁という意識があり、現場に落とし込んでいけるのかという疑問も出る。さらには、企業の価値創造は ROE だけでは測れないはずであるという見方もある。
05:
・一方、ROE や資本コストを社内の現場の KPI(Key Performance Indicator)として落とし込む動きも見られる。
06:
・商社は資本コストを意識した経営が進んでいる業種である。これには二つの側面があろう。一つは、事業特性として資源権益や事業会社等への投資を行うなど投資家として事業ポートフォリオのマネジメントを行っている点である。もう一つは、従来のトレーディングビジネスから、リスクアセットに対するリターンを追求するビジネスモデルに事業構造を転換してきた面である。大手商社のケースでは、ビジネスユニットを収益性と成長性で区分けして選択と集中を進めるとともに、投資評価の軸として資本コストをベースとした ROE を収益率の評価軸としている。
07:
・製造業においても、ROE あるいは ROIC(投下資本利益率)を売上高利益率と資本回転率、レバレッジに分け、自社に合わせた形で現場に取り入れ、全体の収益向上を目指している企業がある。また、ROE10%目標を掲げた上で、事業部門の業績を投下資本全体に対する収益性とフリーキャッシュフローで評価している電機メーカーもある。
08:
・ROE を経営・事業に落とし込む方法として、ホールディングス(以下、HD)と事業会社の役割分担と関連づける企業の例がある。同企業においては、HD において ROEを明確な経営指標として対外的にも表明。その上で、ROE を財務レバレッジと ROAに分け、事業会社の目標として後者(ROA)を「売上高利益率(純利益ベースでの利益率向上)」と「総資産回転率(総資産圧縮による回転率向上)」とに分けて説明。事業会社の役割として、業務執行責任と利益の成長及び資本効率の向上を求めている。一方、HD 側では財務レバレッジも含む経営・監督責任、上場企業としての説明責任、グループ企業価値(株主価値)の最大化を役割として規定。双方のコミュニケーションを前提に、事業会社は顧客の立場で最良の商品・サービスを提供して利益の極大化に努め、HD は利益極大化のために必要な経営資源の配分(事業・組織再編、M&A 等)を積極的に提案することとしている。
【提言・推奨】
09:
・ROE 向上はアベノミクスの第三の矢そのものとして捉えることもできるだろう。ROEを向上させることによって、持続的成長への原資を確保することができ、それが企業価値の創造につながる。それは企業価値創造に向けた企業と投資家との「協創」である。
10:
・投資家は ROE を重視しており、かつ内外企業間の比較を行っている。アベノミクス効果や円安効果で日本企業の ROE は上昇傾向にあるが、それでも国際的に見て低いという事実を直視すべきである。
11:
・企業側においても ROE を要素分解して具体的に「見える化」し、社内の KPI に関連づけていくことでそれぞれの会社の経営改革に十分落とし込めるはずである。いかに自社の事業活動に合うようにブレークダウンしていくか。小手先ではないビジネスモデルそのものの変革と差別化により、強みを生かした取り組みが求められる。ROE は投資家のためでなく、企業の経営と事業を強くするための好循環を生み出す KPI であるという認識の下、インセンティブのあり方、開示の方法、株主との対話のあり方が問われる。
12:
・投資家側も、企業との対話を行う際、ROE を一方的に押し付けるのではなく、企業が事業活動の現場に具体的に落とし込めるように、たとえば、製造リードタイムの短縮、在庫日数の短期化、歩留り改善、稼働率向上、値下げ販売の規律化等の要素に分解してお互いの共通理解を促す努力をすべきである。多様な業種を想定しており、全ての分解要素が一つの企業に当てはまるものではないが、参考として(図4)参照。
13:
・企業の価値創造は ROE の向上とイコールではない。それを超えた側面もあることに留意すべきである。経済的指標では測れない社会的価値はいろいろありうるし、その重要性も高まっている。多面的な価値を追求してステークホルダーの信頼と満足が得られなければ、企業の持続的成長は確保できない。価値創造は経済価値に加えて社会的価値の向上によってももたらされる。その意味で、多面的な価値創造のプロセスに経営者と投資家が入り込んで、理解を深め共有することが重要である。
PI研のコメント:
・伊藤レポート、その3です。論点は、「ROE をめぐって投資家と経営者の間にミスマッチがあるのではないか。」であり、興味深い「議論と現状・エビデンス」が展開され、それを受けて、「提言・推奨」がなされています。特に、「2」では、「ROE 極大化を目指すかどうかは議論が分かれるが、最低限資本コストを超える ROE を目標にすべきとの考えは共通している。その目安として、8~10%、・・」と、ROEの目安を8~10%としており、この8%がこの伊藤レポートの核心ともいます。また、ROEは経営者と投資家とをつなぐキー指標であり、そのためにも、「ROE は投資家のためでなく、企業の経営と事業を強くするための好循環を生み出す KPI であるという認識」も必要と提言しています。さらに、現場は「製造リードタイムの短縮、在庫日数の短期化、歩留り改善、稼働率向上、値下げ販売の規律化等の要素に分解」と、ここまで落とし込んでROEを見るべきであり、そうなってはじめて、投資家=経営者=現場の共通のKPIとなるとのことです。そのためにも、ROE8%は、この3者が共通に目指すこによって、企業の価値創造につながってゆくとのことです。一方で、ROEは万能ではなく、「価値創造は経済価値に加えて社会的価値の向上によってももたらされる、・・」ともいっており、経営者と投資家が多面的な価値の理解と共有の大切さにも触れています。これで、伊藤レポートの解説は一旦終了し、次回は、食品スーパー約50社のROEを見てみたいと思います。
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